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広島地方裁判所 昭和28年(行)23号 判決

原告 今田亀一

被告 広島県知事

一、主  文

被告が原告に対し昭和二十八年九月三十日付を以て命じた広島市横川町三丁目七百六十七番地の七木造杉葺平屋建板壁(住宅兼店舖)一棟の除却命令並に同所住宅兼店舖一棟よりの立退命令はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、其の請求原因として次の通り述べた。

(一)  原告は昭和二十年九月広島市横川町七百六十七番地の七宅地四〇坪三合八勺(以下本件元地と略称する。)を所有者訴外世良俊夫より普通建物所有の目的を以て、期間を定めず、賃料一ケ月二百円毎月末日払、賃料の据置期間一年の約旨で賃借し、(借地法第二条の規定により三十年の存続期間が認められる。仮にこれに反する契約があつたとしても借地人に不利な契約条件であるから借地法第十一条の規定により期間の定めないものとされる訳である。)昭和二十一年十一月該地上に木造亜鉛葺平屋店舖一棟建坪二十六坪を建築し)、昭和二十四年十一月二階五坪二合五勺を増築、昭和二十七年四月四日保存登記を経由、其の後道路新設による区劃整理の為一部を除去され、現在建坪約十坪外二階五坪二合五勺である。以下(イ)の建物と略称する。)昭和二十三年一月木造亜鉛板葺二階建店舖一棟建坪八坪八合四勺外二階六坪五合四勺(未登記、家屋台帳面では訴外世良喜平の所有名義、以下(ロ)の建物と略称する。)を建築各所有し現在に至つているものである。被告は土地区劃整理施行者であるが、特別都市計画法に基き原告に対し昭和二十八年九月三十日付を以て原告所有の(イ)の建物につき同年十月二十日限り除却すべきことを命ずる旨、並に(ロ)の建物につき所有者に対し同年十月二十日までに除却するように命じたから所有者の除却工事の妨げとならないよう同日までに立退を命ずる旨の命令書を発し、該各命令書は同年十月八日原告に対し送達された。

(二)  併し乍ら右除却命令及び立退命令には左記の違法がある。

(1)  原告本件元地について前記の様な借地権を有し、該地上に前掲(イ)及び(ロ)の建物を所有するものであるから被告は特別都市計画法第十五条の規定に則り移転可能な換地予定地を指定して該建物の移転を命ずべきであるのに、移転先を指定しないで単に(イ)の建物の除却を命じたのは違法である。

(2)  被告はこれより先本件元地の換地予定地を広島市横川町二五ブロツク宅地四一坪五合一勺に指定し、原告に対しては昭和二十六年十月十九日(イ)の建物を同月二十日までに右換地予定地に移転すべき旨を命じたのであるが、其の後該換地予定地は本件元地の所有者訴外世良俊夫において、被告より建築許可を得て内十一坪五合に木造三階建店舖及び住宅一棟建坪一一坪一合七勺外二階三階共同建坪を建築して訴外中本義一に賃借し、内各一〇坪を訴外有限会社松屋玩具店及び訴外河野立人に夫々売却し同人等は被告より建築許可を得て該地上に夫々木造瓦葺二階建店舖兼住宅建坪九坪五合を建築した。そこで原告としてはとりあえず昭和二十七年三月右訴外世良俊夫より該換地予定地の残り十坪を買受け、該地上に存する木造バラツク二階建一棟建坪六坪外二階四坪を所有者訴外真藤常雄より買受けるに至つた次第であつて、原告が本件元地の全部につき有する前掲借地権に基き、その全部の使用収益権を有すべき本件換地予定地上には内三十坪三合八勺につき他人所有の建物が存在し原告所有の本件建物を移転し得る余地はないのである。然るに被告は先に原告の借地権を認めて移転命令を発しながら、その移転先たる換地予定地の使用を不能ならしめた上、これらの建物を除却しない儘、昭和二十八年九月三十日に至り右移転命令を取消し改めて本件除却命令を発したのは違法である。

(3)  (イ)の建物は既に昭和二十七年三月二十八日原告に対する国税滞納処分により大蔵省より差押を受け執行中のものであり原告はこれを受忍すべき公法上の義務を負うているのに、移転先のない除却命令を発することは右の義務履行を不能ならしめるものであるから違法である。

(4)  (ロ)の建物は前記のように家屋台帳面では訴外世良喜平の所有名義になつているが、右は建築許可を受ける便宜上名義丈を借用したにすぎず、原告がこれを建築し、不動産取得税も原告において納付しており、実質上原告の所有に属するものであるから、所有者たる原告に対し該建物よりの立退を命ずるのは違法である。

と述べ、被告の主張に対し、

(一)  原告がその主張する借地権について登記をしていないことは認めるが、該権限に基き原告が所有する(イ)の建物につき昭和二十七年四月四日所有権保存登記を経由しているから右借地権は建物保護に関する法律第一条の規定により第三者に対抗し得るものであり、登記済の権利として取扱われるべきものである。

(二)  原告は本件元地について所有者たる訴外世良俊夫の代理人世良喜平と連署の上昭和二十一年十二月中に被告に対し借地権の届出をなした、被告も亦該借地権を承認しているからこそ原告に対し先に特別都市計画法第十五条に則り換地予定地を指定して移転命令を発したものである。蓋し同条に基く移転命令は換地予定地に権利を行使し得る者に対してのみ発せられるものだからである。

(三)  仮に被告主張の如く一年十月の存続期間の届出がなされていたとするも、建物所有を目的とする借地権が該期間の経過により消滅するものではなく引続いて期間の定めない借地権が存続することは借地法の規定に照し明らかであるからその後存続期間延長の届出をしなくても被告は借地権が尚存続するものとして移転先たる換地予定を指定しなければならない。

と述べた(立証省略)。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次の通り述べた。

原告主張の請求原因事実中、昭和二十五年一月当時原告主張の本件元地上にその主張の(イ)及び(ロ)の建物が建築されており(イ)の建物は原告がこれを所有しその主張のように増築及び一部除去がなされたこと、被告が土地区劃整理施行者として右元地につき本件換地予定地を指定した後、原告に対しては昭和二十六年十月十九日付で(イ)の建物につき原告主張の移転命令を発しついで昭和二十八年九月三十日付でこれを取消した上、本件除却命令及び(ロ)の建物からの立退命令を発したこと、右移転命令後右換地予定地上に訴外世良俊夫、同有限会社松屋玩具店、同河野立人が被告より建築許可を得て、原告主張のような建物を建築各所有しており、原告が右換地予定地上に存する訴外真藤常雄所有の建物を買受所有していること、原告が(イ)の建物につきその主張のような国税滞納処分を受け該処分による差押登記嘱託により該建物の所有権保存登記を経て差押登記がなされていること、(ロ)の建物が未登記であり、家屋台帳では訴外世良喜平の所有名義になつていることはいずれも認めるが本件除却命令及び立退命令に原告主張のような違法があるとの点は否認する。

(1)  原告は本件元地につき借地権を有するから移転先たる換地予定地を指定せず単に(イ)の建物除却を命じたのは違法であると主張するが、凡そ土地区劃整理について所有権以外の未登記の権利を有するものが換地の交付を受けるためには、特別都市計画法施行令第四十五条に則り、土地区劃整理施行地区の告示があつた日から一ケ月以内に関係者が連署し土地区劃整理施行者に対し同条所定の届出をしなければならないのである。然るに原告はその主張の借地権については何らの登記もなさず、昭和二十七年四月四日地上物件たる(イ)の建物につき所有権保存登記を経由しているにすぎないが、これとても被告が土地区劃整理施行地区の公示をなした昭和二十一年十一月十四日から一ケ月の届出期間経過後になされたのであるから、被告が土地区劃整理を施行するに当つては未登記の権利として取扱うべきものである。而して原告は右届出期間内に特別都市計画法第四十五条所定の届出をなしていないから、被告は原告に対し換地予定地を指定する必要はない。もつとも本件元地については昭和二十一年十一月十四日付にて申告者世良喜平及び土地所有者世良俊夫連署の上、被告に対し原告が残存期間一年十月なる転借権を有する旨の届出がなされているが、右転借権は残存期間の経過により消滅しており、其の後該権利の変動につき何らの届出もない以上、被告としては原告の転借権は既に消滅しているものとして換地予定地の指定をせず除却命令を発したのである。

(2)  原告は被告が一旦換地予定地を指定して(イ)の建物の移転命令を発しておきながら該地の使用を不能ならしめた上、右移転命令を取消し改めて本件除却命令を発したのは違法であると主張するが、被告が原告に対し一旦換地予定地を指定して移転命令を発したのは、訴外世良喜平の届出による原告の借地権は期間満了していたけれども借地権関係当事者間で円満に移転先を協定の上、移転せしめることが行政目的上最も妥当と考えたからであつたが、原告は該換地予定地の内十坪を元地所有者世良俊夫より買取り、更にその地上に建築された訴外真藤常雄所有の建物を買取つたため、本件建物の移転先を自ら塞ぎ、移転命令の履行を不可能にするような状況を招来し被告としてももはや関係者の協定により建物移転をすることはできないと確信したので右移転命令を取消し本件除却命令を発したのである。

(3)  原告は国税滞納処分により差押を受け執行中の(イ)の建物につきその業務履行を不能ならしめるような除却命令を発することは違法であると主張するが、国税滞納処分による建物の差押が特別都市計画事業による移転命令又は除却命令の執行を阻む規定はなく、阻税債務を履行することも、土地区劃整理による支障物件を除却することも、共に法律に基いて課せられた原告の義務としてその双方を履行することは可能である。

(4)  原告は実質上の所有者たる原告に対し(ロ)の建物よりの立退を命ずること違法であると主張するが、該建物は未登記であり、家屋台帳では家屋台帳法第四条第一項第四号による所有者の氏名として訴外世良喜平が登録されてあるから、被告は同人を所有者と認めて所有者に対する除却命令と共に占有者たる原告に対し立退を命じたのである。

よつて本件除却命令及び立退命令は適法である。

と述べた(立証省略)。

三、理  由

昭和二十五年一月当時本件元地上に原告主張の(イ)及び(ロ)の建物が建築されており、(イ)の建物は原告が所有し、その主張のように増築及び一部除却がなされたこと、被告が土地区劃整理施行者として右元地につき本件換地予定地を指定した後、原告に対し昭和二十六年十月十九日付で(イ)の建物につき原告主張の移転命令を発し、ついで昭和二十八年九月三十日付でこれを取消した上、本件除却命令及び(ロ)の建物からの立退命令を発したこと前記移転命令後、右元地に対する換地予定地上に訴外世良俊夫同有限会社松屋玩具店、同河野立人が被告から建築許可を得て原告主張のような建物を建築所有しており、原告が右換地予定地上に存する訴外真藤常雄所有の建物を買受所有していること原告が(イ)の建物につきその主張のような国税滞納処分を受け該処分による差押登記嘱託により昭和二十七年四月四日付で該建物の所有権保存登記を経て差押登記がなされていること、(ロ)の建物が未登記であり、家屋台帳では訴外世良喜平の所有名義となつていること、原告がその主張する借地権について登記をしていないことは当事者間に争がない。

そこで先づ本件の事実関係につき確めてみるのに、右争ない事実に、その成立について争ない甲第一号証の一、二、第五号証の二、三、第七号証の一、第九号証、第十号証原本の存在及び成立に争なき甲第三号証原告本人訊問の結果により真正に成立したものと認むべき甲第二号証の一、証人曾我部義明の証言及び原告本人訊問の結果により真正に成立したものと認むべき甲第二号証の二、証人笹木正義、同曾我部義明の各証言並に原告本人訊問の結果を総合すれば次の事実が認められる。即ち、本件元地は訴外世良俊夫の所有であるが、原告は昭和二十年十一月頃右訴外人の代理人である訴外世良喜平との間に該地につき普通建物所有を目的として期間は一年(但し地代の据置期間と認められるので賃貸借の存続期間としては借地法第二条の規定により三十年の存続期間が認められる。)賃料は一ケ月二百円の約旨で賃貸借契約を締結し該地上に(イ)の建物を建築して飲食店を始めた。ところで右元地附近は特別都市計画法に基き土地区劃整理が施行されることゝなり、被告はその施行者として昭和二十一年十一月土地区劃整理地区の告示をしたので、原告も被告に対して権利の届出をすることとなり、原告においては当時本件元地の相続関係が明確でなかつた関係上、一応地主を世良喜平、借地人原告、賃借期間五年として届出書を作成の上、訴外世良喜平方に持参したところ、同訴外人においては隣地の借地人との関係もあるので、期間は一応一年十月ということで届出で後は又協議して決定したいという申出をなした。そこで原告は被告に対する届出については、期間を一年十月として届出ることを承諾し前記の届出書を訂正して右世良喜平に届出方を依頼したところ同人においては昭和二十一年十二月十四日被告に対し訴外世良俊夫と連署の上、申告者世良喜平、土地所有者世良俊夫、転借人原告、権利の残存期間一年十月、建物有りとの届出書を被告に対し提出した。その後原告は昭和二十三年二月頃被告の許可を受けず本件元地上に(ロ)の建物を建築したところ、その中途において被告より建築中止の命令を受けた結果、原告は更に該地区区劃整理委員である訴外世良喜平の名義にて建築許可申請書を提出し被告の許可を受けて建築を完了した。該建物は右のような関係で家屋台帳面では訴外世良喜平の所有名義として登録したものの、原告が自己の費用を以て建築し不動産取得税その他の公租公課もすべて原告が負担し、実質上の所有権は原告に属するものである。その後被告は原告に対し昭和二十六年十月十九日付にて「原告所有の(イ)の建物は土地区劃整理のため必要であるから特別都市計画法第十五条の規定に基き同月二十日までに移転することを命ずる。換地予定地は別紙図面の通りである。」として本件換地予定地を移転先に指定して移転命令を発した。その後訴外世良喜平は、同有限会社松屋玩具店、同河野立人と共に被告に対し所轄広島県復興事務所を通じ本件換地予定地につき建築許可を申請したところ、同事務所においては原告に対し前記の移転命令が発せられているにも拘らず、原告の借地権は既に消滅したものと解し右訴外人等の建築許可申請を相当と認めて被告に送付し、被告においてこれを許可したため、右訴外人等は夫々該換地予定地上に原告主張のような建物を建築した。かような訳で原告は本件換地予定地の全部につき前記の元地に対する借地権に基きこれと同じ内容の使用収益権を有するのに該地には他人の建物が存するため原告所有建物を移転することができなくなつたので、原告はとりあえず訴外世良喜平と協議の上該換地予定地上の一部に存していた訴外真藤常雄所有の建物を買受けるに至つた。ところが被告は昭和二十八年九月三十日付にて原告に対し右移転命令はその換地予定地に原告が取得した他の建物があるので現在残存する部分に対する移転命令はこれを取消す旨の通知をなし、次で同日付で原告所有の(イ)の建物は土地区劃整理のため必要であるから特別都市計画法第十一条都市計画法第十二条及び土地改良法第四条によつて準用せられる耕地整理法(昭和六年法律第六十八号)第二十七条の規定に基き同年十月二十日までに除却すべき旨の命令を発した。前掲各証拠を綜合すれば以上の事実を認めるに足りこれを覆すに足る証拠はない。

以上の事実により本件除却命令及び立退命令が違法であるかどうかについて考えて見る。

思ふに特別都市計画法に基く土地区劃整理の施行に当り、従前の土地の全部又は一部について所有権以外の未登記の権利を有する者が換地の交付を受けるためには、特別都市計画法施行令第四十五条の規定に則り土地区劃整理施行地区の告示があつた日から一ケ月以内に土地区劃整理施行者に対して地主と連署した権利の届出をしなければならないことは被告の主張する通りである。

併し乍らこのことは特別都市計画法に基く土地区劃整理が戦災都市の復興の為、広範囲に亘り大量的且連鎖的な必要処分を遂行しなければならない関係上、一般の公示方法たる登記を有するものゝ外は、当該権利を届出させ、全然未届出の権利については土地区劃整理上にこれを斟酌することを要しないこととしたに留り、既に適式の届出がなされているものについて土地区劃整理施行者が該権利の存続するや否やを審査するを要しないという趣旨に解すべきではない。特に建物所有を目的とする土地賃借権の如きは借地法等に保護規定が定められておるのであるから、土地区劃整理施行者は右保護規定と比照し該権利の存否を審査し、行政処分の公益性と権利者の保護との調和を計らなければならないというべきである。

本件についてみるのに、前記認定の如く原告は従前の土地たる本件元地の全部につき昭和二十年十一月以来存続期間三十年の普通建物所有を目的とする賃借権を有し、該地上に登記済の(イ)の建物未登記の(ロ)の建物各一棟を所有しているが、被告に対する昭和二十一年十二月十四日付届出書によれば申告者世良喜平、土地所有者世良俊夫、転借人原告、権利の残存期間一年十月建物有りとされている。この届出によれば該権利が建物所有を目的とする土地の賃借権であることは容易に推認できるのであるから、被告は該権利が届出の存続期間経過と共に消滅したか否かについて審査を遂げねばならない然るところ右権利の存続期間は借地法の規定より三十年とされ、本件除却命令の発せられた当時尚存続することは前記の通りであるから、被告がこれに対して、移転先を指定せず、単に除却を命じたのは違法といわねばならない、のみならず被告は昭和二十六年十月十九日付にて原告に対し換地予定地を指定した上、(イ)の建物に対する移転命令を発したのであるが、このことは右移転命令が特別都市計画法第十五条の規定に基くものであることを明示して換地予定地を指定してなされている点より見れば反証なき限り被告は一旦原告の借地権を認めて移転命令を発したものと認定せざるを得ない。被告は右移転命令を発したのは、借地関係者間で円満に移転先を協定の上移転せしめるのが行政目的上最も妥当であると考えたからであると主張するが、該事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、右の移転命令を取消す余地はないのに被告がこれを取消し改めて事実上移転先のない除却命令を発したのは違法の措置といわなければならない。この点についても被告は原告が移転命令後元地所有者世良俊夫より換地予定地の内十坪を買取り更にその地上に建築されていた訴外真藤常雄所有の建物を買取つたため、本件建物の移転先を自ら塞ぎ移転命令の履行を不可能にする如き状況を招来し被告としてももはや関係者の協定により建物移転をすることはできないと確信したので右移転命令を取消し、改めて本件除却命令を発したと主張するが、原告が本件建物を被告指定の換地予定地に移転せしめることができなくなつたのは、前記認定の通り訴外世良喜平、同有限会社松屋玩具店、同河野立人が、被告より建築許可を得て右移転命令により原告所有建物の移転先として指定されていた本件換地予定地上に原告主張のような各建物を建築したためであつて、原告が訴外真藤常雄所有建物を買受けたのは右の様な事情で原所有建物の移転が不可能となつたため取つた応急措置というべきであるから、このことを以て、前記移転命令を取消し本件却命令を発する正当な理由となすことはできない。

次に(ロ)の建物からの立退命令について考えてみるのに、右建物はその所有権保存登記未了で家屋台帳面では訴外世良喜平の所有名義として登録されているが、原告が建物所有を目的とする賃借権に基き本件元地上に実質上所有する建物であること前記の通りであるから被告は本来原告に対して(イ)の建物と共に移転先を定めて移転を命ずるべきであつた。この点につき被告は(ロ)の建物は家屋台帳面の所有名義は訴外世良喜平であるから同人を所有者と認め所有者に対する除却命令と共に占有者たる被告に対して立退を命じたのであつて何等違法はない主と張するが家屋台帳の登録名義は権利者は認定する有力な資料とすることはできるとしも、登記簿による公示の如く権利の対抗要件とされていないから土地区劃整理施行者がかゝる未登記建物より立退を命ずるについては尚実質上の所有者について調査する義務を免れることはできない。というべく被告が実質上の所有者たる原告に対して立退を命じた本件立退命令は違法といわなければならない。

以上説示のよに本件除却命令及び移転命令はいずれも違法であるから、これが取消を求める原告の本訴請求はいずれも正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用した上、主文の通り判決する。

(裁判官 宮田信夫 胡田勲 裁判官藤野博雄は転任のため署名捺印することができない。宮田信夫)

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